週刊ポスト Shūkan Post 1993.6.25 43-47頁
中村敦夫 vs 統一教会「混淫派・血分け」論争の核心
― 宗教はどう裁かれるのか ―
〈直撃〉
▲「合同桔婚式は血分けの儀式」と、発言して告訴された中村敦夫氏
「統一教会はセックスを通じた宗教で、姦通型の布教」—この中村敦夫氏のテレビでの発言に対し、統一教会が刑事告訴した。これまで山崎浩子の脱会騒動など、芸能マスコミの世界で話題となっていた統一教会だが、この告訴で、統一教会とはなんなのか、合同結婚式とはなんなのか、ようやく、宗教の核心に迫る論議に発展した—。
「今回の告訴は受けて立ちます。というより、よくぞ統一教会は告訴してくれたと、大喜びしているんです。法廷闘争までいけばガンガンやりたい。連中の正体を暴く絶好の機会ですから」
統一教会(世界基督教統一神霊協会)から刑事告訴された俳優・中村敦夫氏(53)は、本誌の取材に自信タップリにこう答えた。
統一教会に関する中村氏の発言が名誉棄損にあたるとして、統一教会が中村氏を東京地検に告訴したのは5月31日。 問題の発言は5月19日放送の『ザーワイド』(日本テレビ系)の中で行なわれた。この日、同番組にゲスト出演した中村氏は統一教会及び文鮮明氏に関してコメント。
「(文鮮明氏は)姦通罪で実刑判決を受けた」「(統一教会は)キリスト教セックス派」 などと発言したのだが、これが事実無根で名誉棄損になるとして、統一教会は日本テレビ側に抗議。発言の全面撤回と謝罪を求める内容証明を送付した。
これに対し、日本テレビ側は、 「ご指摘の件につきましては、中村敦夫氏が長年にわたり、取材した結果を開示したものであり、その内容は番組で放送した通りです。反論の場は番組の中で用意します」と、回答した。
だが、統一教会はなぜか、中村氏個人に的を絞って告訴したのだ。
「告訴があるとすれば、TV局が相手というのが常識ですが、私だけでしょ。日本テレビ側も驚いていました。突然、私だけを告訴したのは、統一教会が焦っているからでしょう」
という中村氏が統一教会に関心を持つようになったのは、約15年前のこと。以下、本誌の取材にその考えを語った。
「統一教会のやっていることは劇的で、かつ悪質です。15年前といえば原理運動が盛んで、日本で基礎を築き、さらにアメリカ進出を狙っていた頃なんです。日本では左翼潰しに動き、アメリカではコリアゲートとして大問題になっていました。当時、私はそれらの動きを映画か小説にしようと、資料集めを始めたわけです」(中村氏)
それが今回のテレビ発言につながった。前出の番組では、文鮮明教祖の1945年頃の活動について、中村氏はこう述べている。
「平壌で霊体交換布教というのをやるんです。簡単にいう姦通型の布教なんですね、セックスを通した」
さらに中村氏は文鮮明氏が1946年頃に。“社会秩序斎乱罪”で逮捕された経歴があるとし、これがじつは “姦通罪” であったと説明。また、文鮮明氏が5年余の実刑判決を受けたと語っている。
「この霊体交換布教というの は、文鮮明の先輩にあたる人 間何人かが平壌近辺でやっていたんです。その中から文鮮明が次第に頭角を現わしてきた。それが姦通罪に問われた のですが、これについては、 文鮮明に関する膨大な研究書があります。私だって、文鮮明がそんなことをしたと、いたずらにいう訳がありません。
当時のビデオが残っているわけではありませんが、統一教会の歴史を証明する証拠については、何の心配もしていません」(中村氏)
さらに、中村氏は統一教会を “混淫派” と位置づけているが、番組の中では、こう説明している。
「昔からキリスト教の異端の派としてある。ようするにセックス。
人間は生まれながらにして、原罪を背負って汚れている。完全な人間じゃないから、教祖が女性信者とセックスして、血を清めてまっとうな人間にする。そして男性信者と結婚させると、完全な子供ができると。まァ、他愛のない論理です」さらに、中村氏は番組の中で合同結婚式にもふれているが、本誌にはこう語る。
▲ 5月19日放送の日本テレビ系『ザ・ワイド』にゲスト出演した中村敦夫氏。
「血分けに関する証拠がある」
「合同結婚式にしたって、結局はキリストの生まれ変わりであると主張する文鮮明が、原罪を背負った人々を清めるためにセックスをするということ。
それにより自分たちの子供を神の子にするという血統の転換の思想です。そのことは文鮮明も信じ切っているのでしょうし、教義の基本だから直せない。実際、初期の合同結婚式では、自ら女性信者とセックスしたわけです。
ところが、信者数が拡大し公の宗教に脱皮することになり、それを隠すようになった。教祖だって、いくら精力絶倫だとしても、数多くの信者を相手にすることは不可能です。
それで、現在の略式の儀式に直し、大型の合同結婚式をやるようになった。とはいえ、そもそもの発祥は血分けの儀式なんです。ようするに、彼らの本当の教義というのは、血分けを基本にした、セックスを媒介した布教なんです。
ただし、セックスと結びついた宗教は他にもある。キリスト教の一派としても出現しています。先日、銃撃戦の過程で死亡したアメリカのデビッド・コレッシュだって、そうです。
だから、統一教会はこのことを隠したがっているんだと思いますね。まァ、隠さないと、反社会的だといわれ、信者に逃げられるのが怖いんでしょう。そもそも、統一教会自身、血分けについて恥だと思っているのではないでしょうか。だから、懸命になって隠し通そうとする。それが教義なら、隠すことはないと思うんですがね。
血分けに関する証拠はあります。実際に文鮮明から血分けを受けた韓国・梨花女子大生の証言など、多くの証言集があります」
中村氏は合同結婚式こそが統一教会の “教義” の核心だと説明するのだが、その一方では、「実際は、幹部の間では教義なんてどうでもよくなってるんです」とも語った。その理由をこう続ける。
「合同結婚式の実体は経済活動です。結婚に必要だからと称しての、信者からの金集めになっています。教義は関係なくなっています。
そもそも、彼らの教義の基本というべき文書に “原理講論” というのがあるんですが、これにもさまざまな問題があるのです。
韓国語版、英語版、日本語版では、記述内容が違うという代物。その国で布教するには都合の悪い部分をカットしています。そういう操作をしないとやっていけない宗教なんです。
ところが、彼らは合同結婚式の血分けの部分だけとらえて、私を告訴してきたんです。私か番組で発言したことを要約すれば、いかがわしい教祖がいて、それが宗教の名を借りて悪行を重ねている。統一教会は経済マフィアだと明言した。なのに、犯罪的集団であるという部分は無視しているんです」
「告訴はマスコミ対策だ」
たしかに番組の中で中村氏は統一教会を「経済謀略集団」と明言し、「世界を制覇しようとしいろいろな謀略を展開」などと語っている。が、こうした発言部分は告訴の対象になっていない。
「悪徳商法については事実だから反論できない、ということです。
さらに、教義の点で争えば禅問答みたいになって、よく分からなくなってしまうと考えたんでしょう。
告訴の意図は明らかです。たとえば、霊感商法、詐欺商法による被害届は、92年度で2611件。総額は73億円を上回っています。
これは消費者センター、弁護士などに届けられた訴えの総計です。膨大な数字ですが、じつは、91年度には92億円以上の被害届が出ているんです。
つまり、1年で約20億円も被害が減っている。それだけ、統一教会に対する反対運動が強まり、被害者が少なくなっているということにもなる。
合同結婚式にしたって、自分たちが経営する旅行社を通じて参加させる大事業です。
ところが、最近のマスコミ報道によって、そういった利益がガタ減りになってきたんです。(山崎浩子や桜田淳子など)タレントを利用して、イメージアップを狙ったけれど、それも失敗。その結果、霊感商法など暗部ばかりに照明が当たるようになってしまった。
それではマズイ。これ以上、イーメジダウンしてはたまらないということで、誰かを訴えようとなった。そんな時にたまたま、テレビで発言した私か選ばれたんです。
まァ、彼らも必死です。経済的に追いつめられているのに、文鮮明が政治献金にどんどん使ってしまう。
たとえば、最近では北朝鮮に近づいています。これは政治介入の目的の他に、姦通布教という歴史的事実を消してほしいという目的があると、私は考えています。
いずれにしろ、莫大な政治資金がいる。実際、これまでにも、入国できないはずの文鮮明の日本入国に際し、政治力を示していますが、これも多くの政治家に金をバラまいた結果です。
しかも、統一教会の資金源の90%は日本です。韓国やアメリカでは商売になっていないんです。だから、日本でのイメージ回復に必死なんです」(中村氏)
ちなみに、統一教会が6月1日付でマスコミ各社に送付した「中村敦夫氏告訴に関するコメント」と題した文書にはこうある。
<日本テレビ、5月19日放送の「ザーワイド」の中で中村敦夫氏は「合同結婚式は血分けの儀式」などと、全く事実無根の発言をし当法人の名誉を著しく毀損しました。よって当法人は5月31日、中村敦夫氏を東京地方検察庁に刑事告訴し、受理されました。当法人としては今後、マスコミが当法人に対して不当な報道を行った場合、断固たる態度で臨むものです>
中村氏はこの文章について、こう説明した。
「ようするに、マスコミが余計なことをいうなという脅迫です。今度の告訴の本来の目的です」
「統一教会に対する中傷だ」
こうした中村氏の発言に対し、統一教会側の見解も聞きたいところだが、取材申し込みに対する回答は。
「すでに、刑事事件として捜査が開始されたので、6月1日付の当教会側公式コメント(前述)以外の回答は差し控えさせていただきます」
というファックスが、広報部から送られてきただけだった。そこで本誌が入手した告訴状から、統一教会側の主張を記すことにする。
「告訴事実」は、中村氏が番組の中で発言した「混淫派」「血分けの儀式」に関する部分を引用。これは<内容虚偽>であり、<名誉を毀損したものである>と、結んでいる。
さらに「告訴に至る事情」の中に記された事実関係の一部を引用しよう。
<文鮮明師が「平壌で霊体交換布教を行った」事実は全くなく、一九四八年、文鮮明師は北朝鮮で、社会秩序素乱罪で逮捕されたことはあるが、これは共産主義社会における宗教弾圧の一環であり、姦通罪とは無縁のことである<合同結婚式について、「血分け」の儀式であると述べているが、この言葉が、いかなる意味で用いられているのか、必ずしも明らかではないが、なにか淫廉、淫乱なるものが感じられる語感から、統一教会やその信者を非難し、その名誉を毀損するために、このような言葉が造語されたのである>
また、「血分けの儀式」に関しては、こうも記している。<統一教会を敵視する勢力が、統一教会と文師を陥れるための常套手段として用いてきた悪宣伝の典型である。これまで「血分け」淫乱説で統一教会を誹膀中傷したものは、裁判で有罪判決を受けたり、また発言内容の訂正、謝罪をしている>
つまり、合同結婚式についての中村氏の認識は事実に基づくものではない、という主張だ。では、統一教会のいう合同結婚式とは、どのようなものなのか。統一教会が「統一教会の結婚観」と題して、本誌1月29日号に寄稿した中から一部を紹介しよう。
<統一教会の結婚は、合同結婚式という形式をとっていますが、これは神と人類の前に公表し「神の愛を中心とした幸福な家庭」を築き、「理想世界」を実現しようという目的をもっているためです>
また、統一教会が日本テレビに送った内容証明書でも、<当教会には「血分け」などという儀式も存在しないし、祝福(合同結婚式)は「血分け」などと無縁の儀式である>と、明言している。
それでも、中村氏はこういうのだ。
「私の発言は多くの研究者たちがすでに発表していること。それで名誉棄損になるなら、言論の自由もなくなってしまいます。不起訴の可能性がいちばん高いのですが、起訴になったら面白い。文鮮明を証人台に立たせることができます。統一教会は暗がりで悪さをする犯罪的集団です。
それが明るい場所に出る時は崩壊するしかないんです」
起訴されるか否かは現時点では不明だが、もし論争が法廷の場に持ち出されたとすれば、宗教はどう裁かれるのだろうかー。
「血分けの儀式」のルーツを韓国で探す
ある老宗教家との不思議な対話
▲ ソウル郊外の小さな教会で、老宗教家は
「金百文が使っていたバイブルだ」と….
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統一教会のルーツがフリーセックスーつまり “血分けの儀式” にあるというのは、韓国でも日本でも、長い間、語り継がれてきた噂だ。
いま、話題となっている “血分けの儀式” のルーツを求めて、私がソウル中心部から車で約1時間の新興住宅街・貞陵の小さな教会を訪れたのは、昨年8月、合同結婚式騒動の合間をぬってのことだった。
統一教会の教祖・文鮮明のかつての師といわれる金百文に会いたいと思ったからである。金百文は、襲国では “血分け教の大家” として有名だ。
「血分けの儀式—後に混淫派、霊体派と呼ばれるセックスによって信者を増やしつづける宗教—が韓国に誕生したのは、まだ日本の植民地だった大正時代にさかのぼるといわれている。その混淫派の中興の祖ともいわれる金百文は、文鮮明より4才年上。生きていれば今年77才になる。
慶北大学の医学生だった金百文は、20才の時、清津(現在の北朝鮮北部)へ旅をした。
そこである女性伝道師に出会い、宗教活動に没頭することになる。日本の敗戦直後の30才の春、ある山中で突然、現われ出たキリストに出会い、その日からその恩寵を多くの人に伝えようと『聖神神学』や『キリスト教根本原理』などの著書を出版し、“血分け教” の布教をはじめた。
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当時の金百文の教会・イスラエル修道院(京畿道)には国会議員や名士たちも多数通ったというが、その信者のひとりに文鮮明がいたとされている。また、文鮮明は、他に李龍道や黄国柱の血分けの教祖にも教えを乞うていたという説もある。
血分けとは、神の啓示を受けた人物が信者とセックスし、それを伝播することだ。その血分けを受けてこそ救われるとする教理、また女子から男子に血分けする時は「騎乗位」で、といった混淫派の教えが、そのまま統一教会に受け継がれたとする伝聞もある。
統一教会の祝福、聖酒式、血統転換、3日儀式の方式が混淫派の教えに非常に似通っているところから、初期の統一教会では混淫派と同じ “血分け” が行なわれたのではないか、と疑問を呈する声は多い。統一教会の否定にもかかわらず、いまだに払拭できないのが現状なのである。
信者が10人も入れば一杯になるような小さな粗末な教会が、金百文の「チョンス教会」だった。ドアの前で何度か声をかけると、奥からひとりの老人が現われた。年格好は、ちょうど70代後半かと思われた。
日本語を理解しているようにも思われたが、通訳を通して韓国語で答える。
—あなたが金百文氏か。「金百文はここにはいない」
—ではどこにいるのか。会いたいのだが。
「金は誰にも会わない。すべて私を通して外部と話すのだ」
—ちょうど年格好が近い。本当にあなたではないのか。
「違う。金に何の用があるのか」
—統一教会の文鮮明の話を聞きたい。彼は、ここの信者だったのか。
「そう聞いている。しかしそれは昔のことだ」
—この教会は “血分けの宗教” として有名だ。血分けについて聞きたい。
「それは短時間に話せる問題ではないよ」
他人に迷惑をかけない限り、フリーセックスを自由と考える人間や宗教があってもおかしくはない。私の知りたいのは宗教史における混淫派・霊体派の位置づけだというと、老人は少し気をよくしたのか、私を教会の中に招じ入れてくれた。
そこで老人は、黒板に図を書きながら、金百文の教えの基本だという創造原理、堕落原理、復帰原理の3大原理を説明してくれた。これは統一教会の教典「原理講論」の基本原理でもある。
老人は、この金百文の教えを文鮮明が学び、それを統一教会の教義としたことは認めたが、血分けの儀式とセックスとの関わりについては言を左右にして、明確な説明はしてくれなかった。統一教会のルーツと混淫に関する質問についても同様だった。
この教会には、まだ日曜日には数人の信者がやってくるという。その年老いた牧師の言葉に、私は、なにか物悲しさを感じずにはいられなかった。
(敬称略)
● 取材報告/大林高士
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English translations:
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