9. 統一教会合同結婚式 日本人妻たちの「肉声」

週刊文春   Shūkan Bunshun  1995.8.31     30-33頁

8-25 統一教会合同結婚式日本人妻たちの「肉声」

有田芳生 &本誌特別取材班  韓国徹底取材


今年もまた多くの日本人女性が海を渡る。韓国人信者に嫁ぐことは光栄だと信じている彼女たち。が、迎え入れる側には、嫁不足に悩む農村のにわか信者が多く、教義の理解も違う。渡韓した日本人妻たちはその現実の中でいま、何を考え、どんな暮しをしているのか。


▲ 結婚式1週間前になってもソウルの教会本部には
「未婚の男女募集」の垂れ幕が

桜田淳子さんも1児の母 ▲


 桜田淳子さんらの参加で大きな話題を呼んだ、統一教会(世界基督教統一神霊協会)の国際合同結婚式からちょうど三年。

 この八月二十五日には、三十六万組を集めたと豪語する国際合同祝福結婚式が、韓国ソウルのオリンピックスタジアムを主会場に、アメリカ、ロシア、日本などで行なわれる。「日本からの参加者は、実数で一万八千人から二万人。既成祝福といって、すでに結婚しているが、再び文鮮明先生のもとで結婚式を挙げる夫婦も含まれています。実は三十六万組の多くが、この既成祝福です。日本人で初めて結婚する人のうち、国際結婚は八千人、韓国人が相手の信者はそのうち五千人です」

(統一教会幹部) 統一教会員にとって、「最高の伝統儀式」こそ合同結婚式である。これに出れば、「祝福家庭」と呼ばれる理想の家庭を築くことができる、と教えられているのだ。

 三年前の花嫁たちは、いまどのように暮らしているのか。その実態を、韓国に見た。

 ソウル市内の喧騒を抜けると、やがて緑豊かな田園風景が続く。高速道路を下りてさらにしばらく走り、自動車一台がようやく通れる未舗装の道をゆっくり進む。目指す場所に着いて時計を見ると、ソウルを出発してから五時間が経っていた。ここは大田市郊外の農村である。この村に、今回の合同結婚式に参加する韓国人男性Aさんが住んでいる。七人兄弟の次男で三十四歳。家の農業を手伝っている。統一教会には、一年前に入ったという。

 はにかみ気味のAさんは、ソウルではすでに見られない伝統的な韓国式住居に案内してくれた。

 「入信した動機は?」と尋ねると、いともあっさりとこんな言葉が返ってきた。

 「統一教(韓国ではこう呼ばれている)の牧師に、『信者になれば結婚できる』と言われたから」 Aさんは、合同結婚式参加の費用として、教会に七十万ウォンを二回払っている。七十万ウォンは、韓国では大企業の初任給にあたる金額だ。農村での価値はさらに大きいだろう。

 統一教会は九二年の合同結婚式のときも、韓国農村の嫁不足状況を利用し、「統一教に入れば、知性ある日本人の女性と結婚できる」と宣伝して信者を増やしていった。その実態は、三年経った今回も何ら変わりなかったのだ。


夫は農業(大田郊外) ―    義父母は農業、夫は病院経営(ソウル郊外)


結婚目的の「にわか信者」

 Aさんに質問を続けた。

―希望の相手は?

 「日本人です」

―統一教会のいいところは?

 「(信仰というより)趣味で行ってるから」

― 文鮮明教祖はあなたにとってどういう人ですか。

・・・・

―結婚相手を文教祖が決めることをどう思いますか。

・・・・

 少し立ち入った質問をすると口をつぐんでしまう。毎週日曜には教会に通っていると言う’が、統一教会の教えを信じているとはとても言いがたい。国民学校(日本の小学校にあたる)卒業というAさんだが、自分の名前を漢字で書くことも、生年月日をはっきり答えることもできないのだった。

 統一教会の合同結婚式の内実に、韓国農村の嫁不足の現状を利用した信者獲得の目論見があることは、最高幹部が問わず語りに認めていることでもある。

 韓国統一教会の郭錠煥会長は、信仰総合誌『統一世界』八月号で、文教祖が婚約相手を決めることについてこう語っている。

「わたしが教会長として(文教祖の)横で仕え、力添えをしながらも、心で日本教会長や日本人たちに少しすまないことがありました」

 郭会長はその理由を、日本人女性信者は高校卒業以上の学歴が多いのに、その相手となる韓国人男性信者は小学校卒業が多いからだ、と語り、さらに年齢の問題をあげる。

 「(韓国人信者には)年をとった未婚の男たちが多いのです。四十歳、三十九歳、三十八歳と降りてくるのと比較しながら、候補者の女性の写真を(文教祖に)差し上げます」

 いわゆる写真マッチングといって、文教祖が写真を見て結婚相手を決めるというのである。

「年をとった日本女性たちは写真か終わったのに『発をとった韓国男性たちはそのまま残っているので、これはいつ三十九歳が終わりになるのか、いつ三十八歳が終わるのか、このような心情でした」

 韓国人男性信者で、ある程度年をとった者と、日本人女性信者とを結びつける、というのだ。しかも結婚を目的とした「にわか信者」が多いことは、韓国の統一教会幹部が認めるところである。これが合同結婚式の実態だ。

 もちろん、郭会長が文教祖の言葉として語っているように、学歴などはその限りにおいては問題ではない。

 むしろ興味深いのは、文教祖が語ったという次のような発言である。

 「日本女性としては、韓国に嫁にくることが、それ以上に光栄で自慢であるので、(学歴や年齢の差は)話にもならない」

 たしかに日本人女性信者にとって、教祖の生まれた国である韓国の男性信者と結婚することが、「光栄で自慢」になるという現実がある。

 日本人女性と結婚できることを夢見ているAさん。その同じ村には、三年前の合同結婚式に参加した日本人女性信者のBさんが暮らしている。

 Bさんが統一教会に入信したのは一九八七年、二十六歳のときだった。四年後に仕事を辞めて教会の活動に従事する。

 三万組の合同結婚式で、農業を営む韓国人のCさんと結婚。Bさん三十一歳、Cさん三十二歳だった。

 いったん日本に帰ったBさんが韓国に渡ったのは九三年一月。夫となるCさんが所属していた教会で暮らしながら、おぼつかない韓国語や韓国式の食事を信者から教えてもらった。

 九三年九月から同居。いまは一歳になる女の子の母親として、主婦業に専念。東北の農家出身だから違和感を感じることなく、「似たような環境だなあ」というのが、この土地へやつて来たときの第一印象だった、といいう。

 Bさんに聞いた。

日本で経済活動などが忙しかったことを、どう振り返りますか。

 「日本の教会にはせいぜい尽くしてきたから、負債は感じません」

-韓国の信者たちは日曜日に礼拝に行く程度ですが、日本でのノルマに追われる信仰と比べてどうですか。

 「ギャップは感じました。いまは夫と家庭に尽くしながら、一生懸命にやるだけです」

-結婚を目的に入信した韓国人と一緒になって、苦労している日本人女性がいることについては?

 「それは本人の信仰の問題。教会員でなくても、男性に尽くす心情は同じはず」

-では、心の支えは?

 「夫と家族の愛情です。原理原則として教会の教えがあります」

 横で赤ちゃんを抱いている、温厚そうな夫のCさんにも聞いてみた。合同結婚式参加を申し込むにあたり、韓国人信者は結婚相手の「希望国家」を申込書に書くことになっていたという。Cさんは日本人を望んだ。

―それはなぜ?

 「日本人はかつて韓国で悪いことをしました。しかし日本人の信者たちは、そのことを謝る活動をしています。だから希望しました」

 統一教会では、戦前の日本が行なった朝鮮への侵略行為の歴史を徹底して教育している。信者たちが日本の「負債」を韓国人信者に負っていることは、現役や元信者たちが一様に強調することだ。だからこそ率先して韓国人と結婚し、尽くすことが、「光栄で自慢」になるのだ。

 Bさんには、日本の統一教会の現状も聞いてみた。いまの会長は誰ですか、と問うと「ど忘れした」としばらく考えていたが、「久保木さんかな」と答えた。

 彼女が口にした名前は久保木修己名誉会長のことで、会長職は四年前の九一年九月に辞任している。さらにいえば、久保木氏のあとに会長に就いた神山威氏は、合同結婚式騒ぎに端を発した霊感商法批判で、九三年一月に辞任。次の会長の藤井菱雄氏も九四年五月に辞任。その後を継いだ小山田秀生氏も一年足らずで職を辞し、今年六月に、かつて霊感商法の音頭をとっていた桜井設雄氏が会長に就任している。

 一年に一人ずつ会長が交代している現状では、Bさんがいまの会長名を言えないのも無理はない。

 しかし、自分が参加した合同結婚式当時の会長名さえ忘れているということは、現在の生活がどれほどあわただしいかがうかがえる。

 日本のいまの会長を知らないというのは、同じ質問をした四人の女性信者全員に共通していることだった。

 とくに三年前の合同結婚式に参加した女性信者たちは、韓国で暮らしはじめて、そう日が経っていないからだろう、生活の感想を聞いても一般的な言葉が返ってくるばかりだった。

 「家庭が大切で、理想の家庭を築くこと、それ自体が信仰で

す」(Dさん)

 「忙しいという印象だけ。教義の理解が違うといっても、韓国とはそういう国。主人の心情が真っ直ぐなので問題はありません」(Eさん)

 

日本人を嫌う両親との軋蝶

 こういう言葉に嘘はないだろう。しかし彼女たちは、抽象的な理念で、生活のあわただしさや矛盾を「解決」しようとしているように思えてならない。

 そのことを、韓国人男性信者の立場から証言してくれたのがFさんだ。

 彼は三人兄弟の長男で、一九七九年ごろ入信。いま三十三歳で、通信関係の会社に勤めている。

 Fさんは、三年前の合同結婚式に出るにあたって、教会から「国際結婚しか認めない」と言われたそうだ。そこで「希望国家」を書く欄の第一希望に日本、第二希望に中国、第三希望に韓国、と書いた。韓国と書いたのは、無理だと分かっていても、できれば韓国人女性と結婚したかったからだ。

 結婚式の1ヵ月ほど前に教会から電話があった。「結婚相手と今日会えるからすぐに来い」

という。結婚相手の写真が渡されるのだ。教会には二百人ほどの信者が集まってきた。

 教区長が一人ひとりの名前を呼ぶ。自分の番が来たので写真を受け取り、そっと見ることにした。日本人女性だったが、想像していた顔と違うのでショックを受けた。教祖が選んでくれた人だと思いなおしたが、それでも「とても怖い印象を受けた」という。

 なかには「気に入らない」と言って、与えられた相手の日本人女性を断る男性もいた。

 しかしFさんは実際に会ってみると、写真の悪印象はすぐに消えた。彼女は、結婚式の五年前から教会の活動に専念している熱心な信者だった。だが問題は、結婚生活を始めてからすぐに起こる。

 夫婦揃って、ソウル近郊のアパートで両親と同居を始めたのは、合同結婚式に参加してから一年八ヵ月後の昨年四月。

 まず問題となったのは。日本人を嫌う両親の存在だ。Fさんの説明を聞こう。

「一九四五年以前、わたしの親たちは日本人によってとても苦労をしたんです。その記憶が日本人とともに暮らしはじめてオーバーラップするんです。しかも、お互いに言葉がうまく通じない。ちょっとしたことから口ゲンカになり、さらに誤解を生じる。衝突は頻繁で、妻は外に飛び出して泣くことが多かった」

 そのうえさらに、韓国人信者と日本人信者の信仰の違いが問題となってくる。

「一心不乱に教えとひとつになろうという彼女の姿勢にはただただ驚いて、口を挟むことができません。韓国での信仰は、あっちを見たり、こっちを見たりというものですから、日本人の一途な一生懸命さにはついていけません」

 ただ、こうした親の世代との軋蝶が一般的だというわけでもない。やがて言葉が通じ合うようになれば、解決される問題も多いのだろう。

 やはりソウル近郊の農村地帯で暮らす日本人女性Gさんの例を見よう。彼女は、一九八八年十月に行われた六千五百組の合同結婚式参加者だ。現在三十一歳になる。

 九年の信仰歴を持つ彼女の夫は、ソウル市内で病院を経営する三十六歳の医師。九一年に家庭を持ち、いまでは四歳と一歳の男の子がいる。

 Gさんははじめ、「どうせ事実でないことを書くのだから」と取材を断ったが、交渉するうちに部屋へ招いてくれた。

 本圃には統一教会の書籍が、育児書や韓国語のテキストと並んで納まっていた。

 両親も同席した取材の雰囲気からは、とても違和感などは感じられなかった。Gさんにいくつかの質問をした。

――― 四年間暮らしてみて、かつての日本での活動をどう振り返りますか。

 「日本の教会では、ただ神のために走ればよかった。それが日本の立場なんです。いまのわたしは、村の中で自然な信仰生活を送ればいいと思っています」

――― 日本でずっと問題になってきた霊感商法については?

 「行き過ぎがあったと思う。もっと人の気持ちを知らなければならなかった」

――― 日本と韓国との違いは。

 「日本は組織で動いているけれど、韓国では個人で信仰を高めなければ」

 

式の参加費は百四十万円

このGさんの発言が正直に語っているように、韓国で暮らすことになった信者たちは、言葉の問題や家庭環境の問題を抱えてはいても、一様に「日本よりは楽だ」という趣旨を語った。

 それはそうだろう。一九七五年の送金命令以来、日本の統一教会は文鮮明教祖のために組織を上げて経済活動を行なってきた。そのもっとも効率的な経済活動が、霊感商法だった。信者たちは常に、伝道と経済活動のノルマに追われている。いまだその構造に、変わりはないのだ。

 しかも、合同結婚式が最高の価値であり、そこに参加することにしか「救い」の道はないと教え込まれている。今回の参加費用は百四十万円。払えなければ、式が終わり日本に帰ってきてから工面しなければならないことになっている。

 無理な経済活動をせざるをえなくなった信者たちは、社会問題を引き起こす。これが、統一教会の合同結婚式の大きな問題点なのである。結婚の形態や意義などという、価値観の問題ではないのだ。

 統一教会を脱会した日本人元信者たちのなかには、合同結婚式で結ばれた相手と離婚の手続きを取る人も多い。しかし、合同結婚式そのものがそもそも無効であるという訴えを起こした人たちが二十六人いる。

 すでにそのうち十六人について、合同結婚式には実質的な婚姻関係が認められないとして、裁判所から婚姻無効の判決や審判が下されている。

 統一教会の信仰さえおぼろげな「にわか信者」が増えれば増えるほど、合同結婚式をめぐる社会問題は増え続けていく。

 前回の合同結婚式で、日本から韓国へ嫁いだ女性信者は相当数にのぼる。

 今年の合同結婚式に参加する冒頭の韓国の農村青年、三十四歳のAさんのもとへも、もうすぐ日本のどこかから、ひとりの若い女性が、信仰と希望に燃えて嫁いでいくことになる。


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