大学のカルト対策(カルト問題のフロンティア)
キヤンパス·力ルトとの戦い方、教えます!
正体を隠した勧言秀や活動の実態を詳細に分析。
カルトと宗教の違い、カルト対策の教育的・法律的根拠を解説。
教職員・カウンセラ一・親御さん、必読の書!
北海道大学出版会 定価 2520円 [税込]
櫻井義秀 (著)、大畑昇 (著)、川島 堅二 (著)、久保内 浩嗣 (著)、瓜生 崇 (著)、郷地 征記 (著)、パスカル・ズィウィー (著)、平野 学 (著)、大和谷 厚 (著)
内容紹介
近年、大学における学生支援や学生相談、および教育・指導の一環として「カルトによる勧誘」への注喚意起、被害学生や家族への対策などが求められるようになり、2009年3月に設立された「全国カルト対策大学ネットワーク」には120校が参加して情報交換を行うようになってきた。日本学生相談学会においても、カルト問題やカルトへの対応が議論されている。第一部では、カルトに関わる基本的な事項の解説、学生支援・指導上の問題、法的措置等について具体的な提言も含めて包括的に論じるとともに、第二部では、日本学生相談学会でのシンポジウムの成果をまとめる。
著者について
櫻井義秀(さくらいよしひで)北海道大学大学院文学研究科教授)主要著書櫻井義秀、2006、『「カルト」を問い直す』中央公論新社櫻井義秀、2009、『霊と金―スピリチュアル・ビジネスの構造』新潮社櫻井義秀、2009、『カルトとスピリチュアリティ現代日本における「救い」と「癒し」のゆくえ』ミネルヴァ書房櫻井義秀・中西尋子、2010、『統一教会―日本戦況の戦略と韓日祝福』北海道大学出版会李元範・櫻井義秀編、2011、『越境する韓日宗教文化・韓国の日系宗教日本の韓流キリスト教』北海道大学出版会大畑昇(おおはたのぼる)北海道大学大学院史学研究科特任教授)
登録情報
単行本(ソフトカバー): 264ページ
出版社: 北海道大学出版会(2012/12/6)
言語: 日本語
ISBN-10: 4832933825
ISBN-13: 978-4832933828
5つ星のうち 5.0
大学内外のカルト対策の現在
投稿者ちひ2013年3月13日
書名や帯にもあるように大学向けのカルト対策の本。「はじめに」では大学関係者や保護者、学生本人にカルトへの注意喚起をするとともに、カルトに対しても自身のあり方を振り返るように呼びかける。
第一部は研究者や弁護士、カルト脱会者や学生相談室カウンセラーなどによる論文集。第二部は2012年5月に北大で開催され、大学のカルト対策について話し合われた日本学生相談学会第30回大会のシンポジウムの記録。
第一部 日本のカルト問題
1 なぜカルトは問題なのか 櫻井義秀
2 全国カルト対策ネットワークについて 川島堅二
3 大学のカルト対策と信教の自由 久保内浩嗣
4 キャンパスでの声かけからネット・SNS に移行する勧誘の手口 瓜生崇
5 青春を返せ訴訟25年 -統一教会との闘い- 郷路征記
第二部 日本学生相談学会第30回大会シンポジウム カルト問題 学生相談との関連
1 外来宗教とカルト問題
2 カルトによるマインド・コントロール パスカル・ズィヴィー
3 学生相談の立場から 平野学
4 大阪大学における取り組み 大和谷厚
5 質疑応答
6 シンポジウムを終えて 大畑 昇
カルトの定義は難しいが、カルト的な活動がなんであるのかは比較的容易に定義されうる。一部のカルトやカルト的な団体が大学に対し「信教の自由」をタテにすべての活動を自由にやらせろと主張する場合の大学側の対処法も紹介される。非常に説得的である。学生がカルトに入ってしまった場合の対処法も丁寧に紹介されている。大学関係者は必読なのではないかと思う。
「長年、大学におけるカルト対策に関わってきて思うことは、カルトとの戦いは情報戦であるということです。その団体についての正確な事実情報が事前に知らされていたら入信することなどありえない宗教団体、それがカルトです。霊感商法による金銭被害でいくつもの返還訴訟が起こされている団体であることを事前に知っていたら、教祖が性犯罪で有罪が確定して服役中であることを知らされていたら、修行中に死者が出てその遺体が不法に遺棄されているような団体だと事前に知らされていたら、その信者たちがどんなにいい人であり、そこで聞く教えがいかに心を打つものであっても、そのような宗教団体に入信する気持ちになどならないでしょう。近づく気持ちにすらならないはずです。しかし、カルトはそうした不都合な事実は一切隠して、温かい人間関係、優しい言葉やふるまい、もてなしで包むことにより拒絶しづらい状況を作り出して深みへと引き込み、いくつものイニシエーションを経て心理的にも身体的にも後戻り出来ない状況にしてから本性を明かすのです。」川島堅二 pp.49-50
「多くの大学で新入生ガイダンスなどでカルト宗教について話されていていますが、こうした場で「ネットで勧誘されることがある」ことを伝える必要があると思います。そして学生が思っている「勧誘」とは全く異なる、たとえば「イイネ!」ボタンを押されて行ってみたら楽しそうなカフェでの集まりだった、など、「こんなアプローチが勧誘のはずがない」と思われかねないやり方でも勧誘されることがあるのだと話をする必要があります。そして大学が用意している相談窓口についても、SNSなど大学のキャンパスとは一見関係のない場所で勧誘された場合でも、気軽に相談してほしいとアピールする必要があります。」瓜生崇 p.86
「カルトの信者は敵ではありません。勧誘する人も、される人も、大学が守らなければならない人たちであることに間違いはないのです。どうかネットの中に自ら入ることで、信者たちとの対話のチャンネルを開いてほしいと思わずにはおれません。そして信者に対して「何かあればここに来てくれれば大丈夫、相談に乗るよ」というメッセージを常に届けていただきたいのです。」同 p.87
気になるのは、大学の敷地内や近隣地域(書店の宗教書やスピリチュアル系のコーナなど)での正体を隠した勧誘が大学側の努力もあって困難になった結果、フェイスブックやツイッター、ミクシィなどで、自分が宗教やカルトであることを明言しないまま、「いいね!」を押しまくったり、日常の何気ない「良い話」を紹介するなどしてカルトのサイトに誘導するなど、カルト側が「勧誘」するのではなく、学生がカルトに自ら近づくような手法が用いられるようになっているということである。
もっと気になっているのは、先日見たネット上の記事では、学生の勧誘が困難になった結果、ファミレスなどで勉強している中高生をターゲットにした勧誘が増えている?と紹介されていたことである。(「カルト 中高生」などで検索)
カルトのメインターゲットは今のところどうやら学生であるらしいが、カルトはすべての人をターゲットにしている。かなうなら、大学関係者だけではなく、すべての人に読んで欲しい。カルトの人にも読んでほしい。
「正々堂々と布教しましょうよ。それで伝わらない、理解してもらえないとしたら、それはあなた方の信じているものの中身、崇拝対象がその程度のものだということなのです。あるいはこう考えましょうか。信じない人、自分たちと信念を同じくしない人もまた、あなた方同様に真剣に人生を考え、社会のために生きようとしています。そのことを認めることです。それが現代社会に生きる宗教者の生き方だと思います。」(はじめに)